創立40周年記念誌 地域社会振興財団
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健康福祉プランナー養成塾は1999年(平成11年)より今日まで続いている。始まる前に坂本敦司先生が私の勤務する藤沢までおいでになり、社会人教育の新しいコースについて説明を受けた。健康関連サービス特に自治体病院のマネジメント改善について議論をした。私はそのころから、自治体病院の運営には大きな落とし穴があると考えていた。ごろ合わせで「免許の人」と「選挙の人」と呼んでいる。医師をはじめとする医療人は国家資格である免許、それも希少価値のある免許に守られて仕事をしている。一方で地域の行政課題の優先順位は首長、議会の選挙の人が民意の権威により決定していく。この二つの考え方、立場は同じ地域、同じ課題について、同じ言葉で議論しても、その背景が異なるため、ついに理解しえない場合もある。対立すれば、ともに正義は我にありである。自治体病院長と開設者である首長の不毛な戦いによる地域医療崩壊の例は少なくない。私も38歳で藤沢町民病院長となり、初めて行政と一緒に仕事をすることになり、お互いの理解のなさが不信や悪意に変質しそうな危機を数多く経験した。その都度、地方自治や自治体病院を含む公営企業が法的にどのように規定され、実際の不都合にはどのように対応してきたのかを調べた。自分の正義が絶対ではなく、行政には行政の正義や論理があることを知った。当時の町長は医学会総会に招かれて講演をしたり、自治医大1年生に数年間に渡り授業を行ったりするほど医療に深い理解と哲学をお持ちの方であった。それにこたえる形でわたくしも行政を学び理解しようと努めた。行政、首長、地方議員との信頼関係はさらに医療をめぐる住民と病院、行政との信頼関係に発展している。平成11年からは毎年養成塾で講演をさせていただき、その都度、行政と医療の溝を埋める努力、成果、そして見通しについて話してきた。また、時間に余裕がある限り前後の講演を拝聴し勉強した。なるほどこの世の中は多面的な人の努力によって支えられており、決して医療が中心で世界が回っているのでもないことが理解できた。この塾の出身者が医療や介護の現場と行政を橋渡しし、同じ言葉を使いながら通じ合わない現場で「日本語の通訳」を買って出て、活躍されている。養成塾は多職種参加で幅広い分野について集中的に研修できる貴重な場になっている。私もこの事業に参加させていただけたことに誇りを感じている。養成塾のこれからの発展に大いに期待したい。その一つに新たに自治体病院長養成塾を提案したい。現在、自治体病院長は互いに矛盾していると思える難問に直面している。最高の質の医療を提供し、不採算医療を実践し、若い医師を教え育て、住民の健康を高め、スタッフを集め、患者を集め、黒字決算を生み出さなければならない。医学や医療の勉強だけでは、とても解決できないように思える。勘や度胸や人間力で突破できる逸材も、私のように幸運に恵まれる病院長も少数である。地方自治の意義と法的基盤、公営企業法、医療保険制度、医療のほかの社会保障制度、制度の外の暮らしや文化など集中的な合宿、講義、議論によって幅広い視野と将来にわたる見通しを身につけることができれば、病院長にとってもその地域の行政にとっても何よりも住民にとって大きな意義があると思う。せっかくの志が社会で結実するためには、地域の様々なセクターと話し合える基盤が欠かせない。医療崩壊が叫ばれているが、教育の力を信じている。中心となる人物の見識は医療や地域を変えていくと期待している。大病院についてはそのようなコースがあるように聴いているが、中小の病院については整備されていないと思う。養成塾に参加させていただいたことに感謝をささげつつ、僭越ながら提案をさせていただいた。162一関市国民健康保険藤沢病院長 佐 藤 元 美健康福祉プランナー養成塾―感謝と提言

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