創立40周年記念誌 地域社会振興財団
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本会は千葉県九十九里沿岸部にある山武地域を活動対象地域としている市民団体です。当地域は2004年の新しい医師の臨床研修制度が始まる前から、医師が少ない地域でした。人口10万人あたりの医師数を比較すると、当地域は全国平均の半分以下の医師数です。都内から小さな子供を連れて当地に越してきた私は、夜間に発熱した乳児を見てもらえる病院が近隣になく、大変心細い思いをしました。当時は「大変な地域に越してきてしまった。だれか何とかしてくれないかしら」と思っておりましたが、子供も大きくなり、様々な方との出会いをいただきました。中でも千葉県立東金病院の平井愛山院長先生には、新しい研修制度をはじめ、現場の実情などを詳しくお教えいただきました。「現場も一生懸命努力をしていますが、医療者だけで解決できる問題ではありません。住民からも何かアクションを起こしてもらえませんか」と院長先生に宿題をいただきました。私はお話を伺う中で、地域の医師不足とそれに伴う様々な課題は、専門機関だけの努力では解決できないこと、さらに、この解決策を見出すためには、専門家にすっかりお任せしている住民が、情報を共有し、解決に向けての知恵を出し、さらには自分たちの行動を変えていかなくてはならないこと、などを強く感じました。自分にできることを考えた時に、まずはこの実情と、その理由を地域の住民に知らせ、地域が協力して課題解決に取り組めるような「場」を作ることだと思い至りました。以上のような経過を経て、2005年(平成17年)4月に「地域医療を育てる会」を立ち上げました。「対話をする地域医療を育てる」をミッションに掲げた私たちは、地域のステークホルダーと対等な協力関係を作るためには法人格を取得したほうが良いと考えました。皆様のご協力を得て、同年12月にNPO法人格を取得いたしました。活動の2本柱は「情報発信」と「対話の場づくり」です。情報発信のツールとしては、情報紙CLOVERを隔月2万枚発行し、絵本やDVDも制作しました。インターネット上にホームページやブログも開設していますが、紙を媒体とした情報発信は重要です。また、絵本「くませんせいのSOS」はコンビニ受診の弊害や、かかりつけ医を持つことの大切さを小さな子供たちにもわかりやすく訴えたものです。発行以来8万部を売り上げ、行政機関や医療機関の方が啓発活動に活用してくださっています。また、医療や健康に関心のある各団体が、このストーリーをもとに劇や人形劇などを上演してくださっています。2本目の活動の柱、対話の場づくりでは、住民・医療・行政・福祉の関係者が一堂に会し、様々なテーマで情報の共有と意見交換を行っています。後述します「夢プロ」もその一つで、立場の異なる人たちが、同じ地域に住む住民として目標を共有し、それぞれのプロフェッショナルの視点から意見を交換する場となっています。このような活動を開始したころ、自治医科大学の大学院で学んでおられた松嶋大先生からメールをいただきました。松嶋先生は当会のホームページをご覧になり、学内にある地域医療学講座のことを教えてくださいました。「一度、大学の梶井教授の教室にいらっしゃいませんか」とお誘いを受け、大学に出向いたことが、これからお話しする「地域医療を守り育てる住民活動全国シンポジウム」が生まれるきっかけとなったのです。梶井英治先生とお会いし、私どもの活動の趣旨をご理解いただき、様々なご協力をいただきました。すべてを書くことは紙面の都合上不可能ですので、この中から2つだけご紹介いたします。一つは、「夢と希望を創る地域医療プロジェクト(夢プロ)」にご協力いただいたことです。このプロジェクトは、地域医療を多面的に学びたいという私たちの願いから計画した6回の連続講座でした。医師不足の原因、これからの時代に求められる医師の育成、病院経営178NPO法人地域医療を育てる会理事長 藤 本 晴 枝 地域医療を守り・育てる住民活動全国シンポジウム

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