創立40周年記念誌 地域社会振興財団
202/240

地域医療白書第3号で担当したテーマについて紹介する。地域医療に関する医療報道がどのような意図をもって作成されているのかを明らかにすることで、地域医療に関する情報を発信する立場の考え方を知ることができる。地域医療白書第3号では医療報道のなかでも特に新聞報道に焦点をあて、「地域医療」という言葉を見出しに用いた新聞記事を分析して、新聞記事にみる「地域医療」という言葉の使われ方を明らかにした。「新聞記事代行検索サービス」(株)日本能率協会総合研究所マーケティング・データ・バンク運営の「ELデータベース」を利用して新聞記事を検索した。見出しに「地域医療」という語がある新聞記事の検索依頼をし、見出しと本文の提供を得た。季節の偏りをできるだけ排除するために、2009年(平成21年)3月、6月、9月、12月、2010年(平成22年)3月、6−7月の7ヶ月分の記事を検索対象とした。提供された新聞記事の内容に基づき、記事の対象は誰か、記事ではどのような意図で地域医療という言葉が使われたのか(言葉の定義)、またその記事では地域医療を好意的に捉えているか否かについてカテゴリー分けした。「地域医療」という語が見出しに含まれた新聞記事は、ブロック紙・地方紙の88%に掲載されていたが、その一方で全国に読者をもつ一般紙では60%に掲載されているにすぎなかった。また記事の多くは「病院」と「行政・医師会」を対象にしており、「地域医療」という言葉を「特定地域の医療」と定義していることが多かった。対象期間に掲載された記事の多くは、全国に普遍性をもった内容を伝えようとしているのではなく、都道府県や市町村、あるいは特定の病院を訪れる患者の居住地区といった限定されたエリアで行われる医療に焦点を当てていたようである。「地域医療」という言葉が「身近な医療」と定義できる記事には、大学病院や専門病院といった専門医志向とは対極にある「かかりつけ医」を取り上げた記事もあれば、医療だけでなく保健介護福祉を包括した「かかりやすさ」を訴える記事もあった。「地域住民の要望に応え、さまざまな業務に対応できる医師」を「総合医」と定義した場合、「総合医」という意味で「地域医療」を用いた記事は多くはなかった。「医療者・医学生」を対象にした記事でも、約25%が「総合医」という定義にあてはめることのできる記事であった。これらは、へき地などの診療所で地域住民とともに住民の生活も含めて全人的に診ている一人の医師に焦点を当てている場合が多く、自治医科大学卒業医師が対象になっている記事が多く見られた。多くの記事が焦点を当てていた、限定されたエリアでの医療がどのようにおこなわれるべきかという点では様々な主張があった。ここには「総合医」という視点より、「限定されたエリアであっても、入院を含めた総合病院的な医療を求めたい」という主張が多くあったように感じられる。また、85%程度の記事は「地域医療」という言葉に明らかに否定的な意味を込めてはいないものの、「現状で満足」といった主旨の記事は皆無であった。「地域医療の必要性を示しつつも、現状では満足できるものではない」といった論調が多い印象であった。以上の検討を踏まえて、地域医療白書第3号では次のような提言をおこなった。新聞記事の検討から推測できることは、一般住民、医療者、メディア関係者など立場の異なる人々が、異なる意図をもって「地域医療」という言葉を使っている可能性が高いことである。「地域医療」という言葉を発信する際には、一般住民、医療者、メディア関係者など発信者の意図を明確にすべきである。さらには「安心して暮らせる医療づくり」を目指すために、それに関わる人々が「地域医療」という言葉の意味を共有することが重要である。192 自治医科大学地域医療学センター・公衆衛生学部門 上 原 里 程地域医療に関する情報発信

元のページ  ../index.html#202

このブックを見る