創立40周年記念誌 地域社会振興財団
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 岩 本 禎 彦沿革血液医学研究部門は、造血発生研究室、止血血栓研究室、分子生物学研究室などのまさに日本最先端の血液学をリードする研究室で構成されていたが、平成15年度から人類遺伝学がその看板を引き継ぐこととなった。その契機となったのは2003年(平成15年)に採択が決まった大規模なプロジェクト「COEプログラム」が始まったことにある。自治医大COEプログラムのテーマは「先端医科学の地域医療への展開」と定められ、分子病態治療研究センターが中心となって推進する分子生物学的手法を駆使した先端医科学の研究を一方の柱とし、地域医療学センターを中心として構成されたチームが卒業生ネットワークを樹立し、5万人規模のゲノムバンク構築を目指して全国から様々な臨床情報の附随したゲノムDNAを収集する「大規模地域ゲノムバンク推進事業」をもう一方の柱とすることとなった。人類遺伝学は、ゲノム抽出用の血液収集に参画するとともに、DNA抽出と大規模なSNP解析を担った。COEが始まった当初は、法医学・人類遺伝学講座であり、後藤孝也講師(現放医研主任研究員)、熊田真樹助教(現地域医療再生プロジェクト部門准教授)、近江俊徳助教(現日本獣医生命科学大学教授)の4人で、ゲノムバンク事業とともに法医学業務も行った。しかし、この頃、法医解剖の件数が徐々に増加し、もはや、研究の傍ら行う業務ではなく、専門的に手がけなくてはならないものに移行しつつあったため、2004年(平成16年)には講座再編が行われ、法医学部門と人類遺伝学部門に分かれた。法医学部門は坂本敦司教授が担当することになり、法医学業務は漸次、手を離れた。2006年(平成18年)から中山一大助教が加わり、集団遺伝学解析をさらに推進できる体制となった。2010年(平成22年)からは、地域医療学センターから分子病態治療研究センターへ編入となり、現在に至っている。研究全般の紹介1) ゲノムバンクを用いた生活習慣病の分子遺伝学的解析:2001年(平成13年)から始まったミレニアムプロジェクトに参加したことをきっかけにして、SNP多型の集団遺伝解析を用いた多因子遺伝疾患の研究を始めた。数年間はゲノムサンプル収集に専念し、データは出なかったが、2008年(平成20年)、血清脂質レベルに関連するSNP関連解析を、COEゲノムバンクで収集した2万1千人のサンプルを用いて、大規模に検証し、21,000×8 SNP=168,000タイピングを行った。その結果は、J Med Genetに掲載され、人種や生活習慣の違いがSNPの効果に影響を与えることが判明し、注目を集めた。また、同じ頃、メタボリック症候群に関連する内臓脂肪蓄積レベルのデータが附随したゲノムサンプルの収集を健診センターの宮下洋准教授と開始し、約3000名のゲノムサンプルを収集し、内臓肥満の遺伝解析を行った。さらに、ヒトでの遺伝的関連をマウスへの遺伝子導入などの分子生物学的手法も加えながら検証する実験を展開している。2) 東アジア〜アフリカにおける肥満と糖尿病に関する遺伝疫学研究: モンゴル保健科学大学、タイSrinakharinwirot大学、久留米大学医学部、女子栄養大学、筑波大学などと共同研究を行い、19地域のゲノムサンプルを用いた多型解析を行った結果、民族の生活習慣と遺伝因子との相互作用を示唆する結果を得た。3) 栄養代謝に関する共同研究: 女子栄養大学とビタミン、脂質代謝に関連する遺伝子多型の解析を行っている。業務2008年(平成20年)から遺伝カウンセリング室を担当することになり、遺伝医療の診療にあたっている。25血液医学研究部門・人類遺伝学研究室

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