創立40周年記念誌 地域社会振興財団
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 梶 井 英 治健康福祉計画研究部門は、1998(平成10)年4月に本研究所の一つの部門として発足した。同部門の企画・運営は、当初、自治医科大学地域医療学講座が担ってきた。2004(平成16)年4月に地域医療学センターが創設され、地域医療学講座は同センターの地域医療学部門に移行した。地域医療学センターは、2010(平成22)年4月の改組を経て、現在は地域医療学部門、公衆衛生学部門、地域医療政策部門、地域医療支援部門、東洋医学部門、地域医療人材育成部門、総合診療部門、地域医療再生プロジェクト部門、地域医療情報学部門の計9部門で構成されている。健康福祉計画研究部門の研究は、地域医療学講座から地域医療学部門に移行し、さらに地域医療学センターの他の部門との連携のもとに推進されている。こういった組織改編の流れを■みながら、この10年間を振り返ってみたい。1992(平成4)年に自治医科大学(JMS)コホート研究が立ち上げられた。同研究の目的は、脳卒中、および心筋■塞の発症を追跡調査し、日本人の循環器疾患の発症に関連する危険因子を解明し、予防活動に役立てることにあった。JMSコホート研究は、岩手県から福岡県までの8県12地区の12,490人の住民を対象とし、10年間の追跡調査を実施した。2005年に全追跡を終了した。JMSコホート研究では、沢山の有用な結果が得られている。脳卒中と心筋■塞の年齢調整罹患率を発表した。脳卒中と心筋■塞の発症に関わるリスクチャートを作成した。全脳卒中、脳■塞の発症率は、年齢、収縮機血圧とともに上昇を示した。心筋■塞では、発症率が低いため、脳卒中に比べてリスクが低くなっているが、脳卒中の結果と異なり、総コレステロールと血圧の上昇にともない、リスクの上昇が見られた。脳卒中リスクと血圧との関係、メタボリックシンドロームとCRPとの関連や脳卒中発症のリスクについても明らかにされた。これまでに欧文69編、和文13編の計82編の論文が発表されている。国が世界に伍する研究拠点を育成するために立ち上げた21世紀COE(Center of excellence)プログラムに、自治医科大学のプログラム「先端医科学の地域医療への展開」が採択された。同プログラムは、2003(平成15)年度から始まり5年間続いた。本学の21世紀COEプログラムの一つの柱であった「大規模地域ゲノムバンク推進事業」を展開するために、先に述べた地域医療学センターが設置された。本事業の目的は、生活習慣病の遺伝的背景や地域集積性に関わるゲノム解析を行い、各疾患の地域特性の明確化を図り、さらにその新規予防対策・治療法へとつなげる基礎研究を推進することにあった。同センターが中心となって、地域研究拠点での勉強会や個別指導体制を導入し、地域における若手研究者の育成や研究環境づくり、さらに住民健康教育体制の充実を図った。全国92の地域研究拠点(36都道府県)から登録された20,927人の大規模地域ゲノムバンクが形成された。自治医科大学21世紀COEプログラムが終了した後、2009(平成21)年4月から大規模地域ゲノムバンク推進事業を引き継ぐ「大規模地域ゲノムバンク/介入・コホート研究推進事業」(通称JMSIIプロジェクト)が開始された。同プロジェクトは、大規模地域ゲノムバンク/生活習慣介入研究、JMSIIコホート研究、日本人における自由行動下血圧追跡研究の3つの柱からなり、全国の地域で勤務している本学卒業医師をはじめ多くの医師との連携のもとに現在進行中である。さらに、この2年間に、都道府県における第11次へき地保健医療計画の策定支援とその評価に関する研究、地域医療データバンクの構築と地域医療システムづくり及び地域医療計画への利用に関する研究をはじめ、直ぐに現場へのフィードバックが可能な新たな視点での研究が次々と立ち上げられている。いずれも今後の地域医療を考えるうえで、重要な研究と思われる。研究成果を大いに期待したい。27健康福祉計画研究部門・地域医療学研究室

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