田 中 亨Ⅰ 研究室の概要:病態生理研究部門・病理学研究室は人体病理学部門と統合病理学部門の2部門をあわせた病理学大講座のスタッフが中心となって研究事業を展開している。この10年間を振り返ると、スタッフが大幅に入れ替わるなど人材面での変動が強い。2003年(平成15年)3月に森永 正二郎 病理学教授が在任2年で転出され、また、2005年(平成17年)3月には、斎藤 建 病理学教授が退官された。2003年(平成15年)5月に田中 亨が人体病理学部門教授に、また、2005年(平成17年)4月からは、仁木 利郎が統合病理学部門教授に就任した。また、この10年間で、川井 俊郎 准教授、弘中 貢 准教授、藤井 丈士 講師、櫻井 信司 講師、久力 権 助教、 野首 光弘 助教、佐久間 裕司 助教、 高屋敷 典生 助教、松原 大祐 助教、喜舎場 由香 助教などが転出した。一方で、山口 岳彦 准教授や坂谷 貴司 学内准教授、河田 浩敏 助教、吉本 太一郎 助教の昇任、着任があり、平成24年4月現在、6名の体制で研究を行っている。研究面に関しては部門ごとに独自の研究を展開している。Ⅱ 主な研究事業内容:(1)FGF8抗体の治療応用へ向けた基礎研究:企業と共同で特許を取得しているFGF8抗体の臨床応用へ向けた予備実験として、マウスに移植した腫瘍でのFGF8抗体の効果を検討し、良好な成果を得ている。また、関節炎モデルにおけるFGF8抗体の作用に関しても成果を発表している。(2)性ホルモン不応性増殖を示す乳癌、前立腺癌に対する新たな分子標的の探索:マウスモデル系を用いて性ホルモン不応性癌と反応性癌をジーンチップにて解析し、候補分子を抽出した。そのなかから、免疫染色などで標的分子を丹念に絞り込み、最近、Rho GEFの一種であるNET1が、性ホルモン不応性癌で細胞生存に関与していることを見出し、論文として発表した。ジーンチップでは多数の遺伝子が抽出できており、現在も、有用な分子標的の検索を継続している。(3)肺癌、消化器癌、乳癌の細胞生物学的、分子病理学的研究:肺癌、消化器癌、乳癌を対象に、病理組織検体、培養細胞を用いて、分子標的や癌・間質相互作用についての研究を行っている。肺癌では特に腺癌について、ドライバー変異分子である上皮成長因子受容体(EGFR), MET, KRAS, ALK, etcと上皮間葉転換形質について研究を行っており、その成果を発表してきた。消化器癌については、特に食道■平上皮癌について培養細胞を用いた細胞生物学的な研究を進めており、線維芽細胞由来の因子により癌細胞の増殖、浸潤が刺激される現象に焦点をあてて研究している。また食道■平上皮癌と乳癌については、臨床との共同研究により予後因子、治療効果の予測因子についての研究も行っている。(4)骨疾患の病理:良性脊索細胞腫の概念を確立し、その結果を踏まえ脊索腫への悪性転化の臨床病理学的研究を行っている。また、外科材料を用いた骨・軟部腫瘍や非腫瘍性骨・関節疾患の臨床病理学的研究や、剖検材料を用いた転移性骨腫瘍や脊椎疾患の病理学的解析を行っている。最後に、今後の10年間についても展望してみたい。近年の目覚ましい分子生物学の進歩により、いわゆる生活習慣病に対する様々な疾患モデルマウスが作製され、その病態解析の過程で病理形態学の重要性が再認識されてきている。そのような疾患モデルと実際のヒトの疾病から得られた病理切片を、基礎医学研究者と人体病理学研究者で相互に討議しあいながら解析していくような方向が望まれる。さらに、生体イメージングの手法も進歩してきており、このような方面での共同研究も重要になるであろう。今後の10年間も、病理学研究のさらなる飛躍が期待される。30病態生理研究部門・病理学研究室
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